2020年3月16日(月)・17日(火)武蔵野キャンパスで行われる予定だった令和元年度武蔵野大学卒業式・大学院修了式は新型コロナウイルスの影響を考慮し中止となりました。
武蔵野大学西本照真学長から式当日に卒業生・修了生へ送られる予定だったメッセージを配信しています。

【西本照真学長メッセージ】

卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、大学院の修了生の皆さん、修了おめでとうございます。ご家族、関係者の皆様にも心よりお祝い申し上げます。

新型コロナウイルスの感染拡大の中で、皆さん心待ちにされていた行事を中止することは大変残念ではありますが、今年度の卒業式、大学院修了式を中止にさせていただきました。式典が中止となったのは、2011年の東日本大震災以来のことであります。このような非常事態の中にありますので、この機会に皆さんとご一緒に「日常と非日常」の意味について考えてみたいと思います。

卒業生、修了生のみなさん、今、皆さんの心に去来するものは何でしょうか。目を閉じて心の赴くままにふりかえっていただくと、学生生活の中での友人との何気ない談笑、授業、ゼミ、研究会での学修や先生方のご指導、資格取得のために懸命に励んだ日々、実習、フィールド・スタディーズ、サークル活動など、様々な出来事と出会いがよみがえってくることでしょう。「何気ない」という言葉を用いましたが、その意味は「どのような特別な意識も注いでいない状態」、つまり「日常」ということであります。しかし、今、改めて振り返ってみると、その日常の一コマ一コマがどれだけかけがえのないものであったか、しみじみと感じられることでしょう。そうです。私たちが感じていた「何気ない日常」は実は「非日常」の連続であったのです。皆さんのこれまでの学生生活を生み出してきたすべての瞬間、すべての空間、世の中のあらゆる営みは「非日常」なるものの総体です。「何気ない日常」は、実は不可思議としか言えない無限の働きの中で奇跡的に実現していたのだ、ひらたく言えば、「あたりまえ」のことが本当は極めて「あたりまえではない」ことだったのだということになります。「あたりまえ」という日常性に埋没した感覚の中には、その「あたりまえ」を生み出し支えていることへの感謝もなければ、さらに幸せなよりよい社会を築いていこうという向上心も生まれません。どうかこの機会に皆さんの大学生活の日常を支え続けてきた無限のはたらきに目を転じて、「日常」がいかにかけがえのない「非日常」であったかを心に刻み、深い感謝の気持ちとともに、「非日常」なる過去と現在と未来をしっかりと見つめつつ歩んでいって下さい。

「日常の中に非日常を見る」こととともに、今のような非常事態においては「非日常においても日常を忘れない」ことが大切です。非日常の「思うようにならない」出来事が生じると、「非日常」の意識が冷静沈着さを彼方に押しやり、他者への寛容性も失われてしまいます。「非日常」の意識は、それまでの人生において大切にしてきた意味の世界をも奪い取っていくことになりかねません。第二次世界大戦でナチスによる迫害と虐殺の嵐が吹き荒れる中、自らも強制収容所に送られ、九死に一生を得たV・E・フランクルは、戦後、精神科医として活躍し、ロゴセラピーを提唱しました。彼は『それでも人生にイエスと言う』という講演集の結びにおいて次のように述べています。「人間はあらゆることにもかかわらず―困窮と死にもかかわらず(第一講演)、身体的心理的な病気の苦悩にもかかわらず(第二講演)、また強制収容所の運命の下にあったとしても(第三講演)―人生にイエスと言うことができるのです」(山田邦男/松田美佳訳、春秋社)人生において迫り来る数々の「思うようにならない」ことに、どのような姿勢で臨んでいくか、どのような意味を見いだすか。目の前の、あるいは自身の「思うようにならない」状況、現実を、どのように受け止め、背負い、乗り越えていくか。皆さんのこれからの人生でも、非日常の予期しない出来事がかけがえのない日常を奪い取ろうとする時があるでしょう。あるいはこれからの時代は、非日常が日常化していくかもしれません。そのような時代を前にして、皆さんはぜひ怯むことなく、数々の先人達の生き様に学び、願わずして恵まれたいのちをどう生きるか、自己の生き方を深く問いつつ人生を歩んでいってほしいと思います。

本学は2016年4月、建学の精神である仏教の願いを今日的に具現化した新しいブランドステートメント「世界の幸せをカタチにする。」(Creating Peace & Happiness for the World) を発表し、その目標の実現に向けて国連が進めるSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みとも連動しながら様々な活動を展開しています。皆さんはそういう時期に大学生活を送ったわけで、いわば武蔵野大学の幸せブランドの申し子といえます。卒業後もHappiness Creator であることを心にとめ、2050年の未来に向けて「世界の幸せをカタチにする。」取り組みを大いに進めていってください。

皆さんが学んだ自然豊かな武蔵野キャンパスでも、季節がめぐり、梅、サンシュユ、コブシ、サクラ、ハナモクレンなど、時に違わず花を咲かせ、卒業を祝うがごとく扶桑の花園を演出しています。いのちをささえる大きないのちのはたらきは、すばらしいものです。どうか皆さんも、これからの人生において大きないのちのはたらきを仰ぎつつ、すばらしい花を咲かせてください。皆さんのご活躍を心から念じ、餞(はなむけ)の言葉といたします。改めてご卒業・修了、おめでとうございます。

令和2年3月16日
武蔵野大学
学長 西本照真